コラム
ヘリポート業界の動向、知識などの情報を記事にしています。
「新・ヘリポートの造り方」
基礎知識
2024.10.22
「新・ヘリポートの造り方」床面強度と機体重量
ヘリポートの設計時に床面強度をどう計算するべきか。設計会社にも詳しい人はほとんどいません。それをチェックする「運輸省」にも非常に少ないのが現状のようです。
最も重要なチェック項目はヘリポート床面の「曲げ応力」で、着陸する機種の全備重量(その機体が最も重い状態での重量)の 3.25 倍の力に耐えうることを証明しなければなりません。実際には「全備重量の 3.25倍」をスキッド幅(あるいは車輪幅)の 2 点で等分します。車輪が 3 つ4 つある機体でも 2 点として計算します。
スキッド間の距離をlとしたとき、躯体スラブ(平板)は「l幅の任意の2点」で「最大離陸重量× 3.25/2」に耐える曲げ応力が必要なのです。このほかに自重や風荷重などのチェックも必要です。
車輪が 2 輪以上ある機体でも、2 点に荷重がかかるとして計算する
さらにヘリポート床面は「パンチングシャー(Punching shear)」と呼ばれる独特の「打ち抜きせん断力」がかかりますから、これに耐えることも必要です。ICAOでは、ヘリコプター着陸時に「全備重量の 3.25倍が 645cm2にかかる」としてこれに耐えうる強度を床面に求めています。
パンチングシャーは、通常のせん断(shear)とは異なり、まさにパンチのように一瞬、つまり超短期での一点集中荷重のことです。土木工学・建築工学では柱の上にスラブを置く場合に下からのパンチと仮定して計算することがありますが、ICAO で求めている「全備重量の 3.25 倍を645cm2で受ける」という基準は超短期の衝撃荷重を前提にしています。
パンチングシャーの荷重計算で「全備重量の 3.25 倍を 645cm2で受ける」という表現から曲げ応力の計算時にも「機体着陸時には全備重量の3.25 倍が 645cm2の1点にかかる」と間違えて理解している方がいますが、そうではありません。曲げ応力を計算するときには「全備重量の 3.25倍の1/2をスキッド幅の任意の2点で受ける」ことを確認する必要があるのに対し、パンチングシャー応力は「全備重量の 3.25 倍を 645cm2で受ける」ことを確認する必要があるのです。
専門的な表現をしますと曲げ応力は構造力学の問題、パンチングシャー応力は材料力学の問題ということです。ここで難しいのはパンチングシャーの応力はパンチを受ける面の形状によって異なるということです。
同じ 645cm2でも矩形と円形では応力は異なってきます。ICAO の基準にもこの 645cm2の形状に関しては何も書かれていませんが、645cm2というのは1 辺が 10 インチ(25.4cm)の正方形と理解すべきでしょう。パンチングシャーは同面積の場合、円形が最も厳しい条件となりますから、直径 28.7cm(面積 645cm2)の円形で応力を測っても良いでしょう。
躯体コンクリートの曲げ応力が十分であれば、防水層上の保護コンクリートの曲げ応力はまず心配ありません。保護コンクリートの曲げ応力は躯体コンクリートに依存することができます。
「最大離陸重量(W)の3.25倍」をスキッド幅の任意の2点で等分した荷重に耐える応力が必要
一方、パンチングシャーは躯体コンクリートに依存できません。防水層上の保護コンクリートもパンチングシャーに耐えうる応力が必要になるのです。
「最大離陸重量(荷重)の3.25倍」を任意の1点(645cm2)で受ける応力が必要
また、超短期荷重であるパンチングシャーにはコンクリートよりも靱性(じんせい=粘り強さ)の高い金属の方が、はるかに対応力があります。コンクリートは割れてしまいますが、金属は変形するだけだからです。