コラム
ヘリポート業界の動向、知識などの情報を記事にしています。
「新・ヘリポートの造り方」
基礎知識
2024.08.21
「新・ヘリポートの造り方」 計画段階から注意すべき一般的なチェック項目 その4
ヘリポートを設置するのはどこが良いのか。多くの要因をつぶさに検討し総合的な判断で最適箇所を探し出しましょう。
チェック項目を列挙します。
(計画段階から注意すべき一般的なチェック項目 その3 はこちら)
チェック⑧【待機室】
動線の項目で触れましたが、最近は病院ヘリポートからヘリコプターによる患者搬出が増えてきました。「検査入院していた患者に重大な心臓疾患が見つかったが、当病院では十分な手術が行えないので大学病院まで搬送する」などの事例です。この場合、迎えのヘリコプターが到着した後に患者が病室を出るという悠長なことはできません。ヘリコプターの着陸時までにはヘリポート付近で待機している必要があります。そのためヘリポート付近にダウンウォッシュの影響を受けず安静に待機できるエリアが必要です。
チェック⑨【入院患者への配慮】
ドクターヘリの基地病院では毎日ヘリコプターが離着陸します。入院患者はその都度離着陸の音を聞くことになるのですが、私が知る限り、きちんと設計されていれば入院患者からの苦情はほとんどありません。ヘリポートを設置するほどの病院はエアコン設備もしっかりしており、窓を開けることが少ないので、大きな騒音問題になっていないのかもしれません。
獨協医科大学病院(栃木県)や熊本赤十字病院(熊本県)はドクターヘリの基地病院として毎日ドクターヘリが離着陸しています。これらの病院は入院病棟からヘリポートが見える造りになっています。入院患者やお見舞いの方々にとってドクターヘリは「うるさいもの」と言うよりも、闘病中でともすれば弱りがちな気持ちを励ましてくれる「頼もしいもの」、あるいは外出がままならない状況では「自由」といったイメージを抱いたり、「夢をくれるもの」であったりするようです。
闘病中の患者を励ます効果も
チェック⑩【給油施設】
一般的なドクターヘリは燃料満タンで2時間半程度のフライトが可能です。ところが燃料満タンに近い状況で傷病者や付き添いの方をピックアップすると重量が重くなりすぎることがあります。ヘリコプターは燃料満タンで、かつフルパッセンジャー(定員満席)の飛行は苦手なのです。このため多くのドクターヘリは1時間半程度のフライトが可能な燃料しか入れておらず、任務を終えて帰還するとすぐに次の出動要請に備え燃料を給油します。警察ヘリや防災・消防ヘリもヘリポートへ帰還後直ちに燃料を給油することが一般的です。そのため、最近では着陸帯付近に燃料給油施設を置くことが増えてきました。
一般的な燃料給油施設は「タンクローリーエリア」「地下タンク」「ポンプ室」「払い出しユニット」で構成されます。地上の「タンクローリーエリア」に停まった給油車から燃料を「地下タンク」に移します。これは自然落下での移し替えです。こうして「地下タンク」に貯蔵された燃料はポンプで圧送され、「払い出しユニット」で機体に給油されます。
「払い出しユニット」とは、ガソリンスタンドでよく見かけるホースの先にガンタイプの給油ノズルがついた装置です。大まかなシステムはガソリンスタンドと一緒です。
ところが……。街中にあるスタンドのガソリンや灯油の給油装置と、タービンヘリコプターのためのジェット燃料の給油装置では多くの基準が異なっているのです。ヘリコプター燃料を給油するのであれば、専用の給油装置を設置しなければなりません。タンクや配管、ノズルに至るまでジェット燃料専用のものにしなければならないのです。その辺のガソリンスタンドの装置を転用したらとんでもないことになります。
「ジェット燃料取扱基準に関する指針」が、我が国の石油精製会社や元売会社で構成される石油連盟から出ています。ヘリコプターの給油装置を設けるのであれば、この指針を熟知し実績のある業者へ依頼しなければなりません。
しかし、これらのことを知らない運航会社や建築・設計会社があります。病院ヘリポートの給油装置を、街のガソリンスタンドの設置を専門とする設備会社に依頼してしまったケースも複数あります。事故が起こる前に、早急に取り換えることをお勧めしています。
ちなみに、ヘリコプターの事故が発生した場合、国土交通省の運輸安全委員会(かつての航空・鉄道事故調査委員会)が現場で検証し、燃料も検査します。採取した燃料を分析すれば、それが「ジェット燃料専用の給油装置」から給油された燃料か、そうでないのかはすぐに分かります。給油装置の設置責任者や運航会社は処罰をの対象となることもあります。
ジェット燃料はジェット燃料専用の取扱い装置で