コラム
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基礎知識
2024.08.08
「答えは防災ヘリポート」①「防災」と「減災」の違い
「防災」と「減災」の言葉の違いに明確な線引きはありません。私のまわりの「土木屋」の多くは、「防災は死者をゼロにすることが目的」「減災は死者数を100分の1にするのが目的」といった程度の認識です。
津波対策を例に考えてみましょう。「防災」と言えば「海沿いに、想定される津波の高さを超える堤防を築く」ことで津波から街を守ることを考えます。一方「減災」は、津波による被災は免れないものの、街の中に「津波避難ビルを数多く建設する」ことで多くの命を救うことを考えます。
「緊急津波速報」や「津波時の避難ルートの確認」あるいは「ハザードマップの作成」など、「ソフトによる対策」はすべて「減災」目的であると考えられています。
土木屋の間で「減災」という言葉が聞かれ始めたのは阪神・淡路大震災直後だと記憶しています。私も阪神・淡路大震災を機に「これからの我が国の安全にはヘリコプターの活用が欠かせない」と思い、防災ヘリ、警察ヘリ、ドクターヘリ、そして自衛隊ヘリを対象に事業を展開する今の会社「エアロファシリティー株式会社」を設立しました。
当時の土木学会では、「減災」に関する発表が行われると「土木屋は『減災』ではなく『防災』を目指すべきではないのか?」「『減災』は、災害を防ぐことができない土木屋の逃げ、言い訳ではないのか?」などと厳しい意見を発する古い考えの大学教授もいました。
もちろん災害を未然に防ぐ『防災』ができればそれが理想です。『防災』は技術的にはそれほど難しいものではありません。おカネが潤沢にあって、地域住民が協力的であれば『防災』は意外と簡単です。海岸線に高い堤防を築けば津波の直撃は避けられそうです。ところがそれをするためには莫大なカネと時間がかかってしまいます。「景観が悪くなる」と住民からの反対の声がでます。漁師は「海へ出るのが不便になる」と反対します。さらに海岸線に堤防を築くと言っても河口部には堤防が造れないので河川を海水が逆流することは防げません。河川の堤防も高くしなければなりません。
技術的には簡単な「防災」ですが、実行するのは言うほど簡単ではないことが分かってきました。それに伴い「『減災』ではなく『防災』を目指すべき」との意見の教授の声も徐々に小さくなってきました。
もう一つ余談です。災害の「最悪の想定」というのは何を持って想定するのか、ということです。実は「最悪の想定」というのは「これまで経験した中で最も悪いもの」なのです。つまり明確なデータが残っているものの中で最悪なものを参考にしているのです。最近は地震の揺れの大きさを「加速度」で示す「ガル」という単位が使われます。過去に起こった地震の揺れで最大のものは何ガルであったか。その経験最大値を震度7に想定し、建築物の耐震基準などの設定に応用しています。おそらくここ百年程度のデータの中の「最悪値」を現在の「最悪の想定」としているのです。つまり「最悪の想定」を超える可能性は十分にある、ということなのです。長々と語ってきましたが、ここで私が言いたいのは莫大な費用と時間をかけて、それでも完璧とは言えない『防災』よりは、被害を少しでも抑えるための『減災』にターゲットを絞ったほうが現実的である、ということです。
小冊子『答えは防災ヘリポート 著:木下幹巳』より抜粋