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基礎知識
空飛ぶクルマと屋上Vポート
2021.11.30
空飛ぶクルマと 屋上 Vポート「空飛ぶクルマ」 はオートローテーションできない
ここで重要なお話をします。設計にも大きな影響を与える安全性の問題です。
ヘリコプターには、万一、飛行中にエンジンが停止したり、テールローターが故障したり、不測の事態に陥った場合、機体を安全に着陸させるためのオートローテーションという緊急操作があります。ヘリコプターの天地が逆転せず、回転翼がパラシュートのような役をする仕組みです。しかし、ほとんどすべてのドローンや「空飛ぶクルマ」のような多翼機ではオートローテーションができないのです。オートローテーションの仕組みはローターのピッチ(角度)を変えることによって作動しますが、多翼機ではピッチは基本的に固定されており、回転速度のみで揚力を調整するのです。ピッチを変更できない多翼機はモーターが停止した瞬間、墜落してしまうのです。オートローテーションが効きませんから多翼機の場合は天地が逆になって墜落することもあるでしょう。実際、私もドローンが横向きになって地上に落ちるのを見たことがあります。ドローンはオートローテーションできない、と覚えておいてください。
<用語解説>オートローテーションとは
ヘリコプターや「空飛ぶクルマ」を語るとき、ぜひ知っておいてもらいたい言葉が「セットリング」と「オートローテーション」です。「セットリング」に関しては前に説明しました。ここでは「オートローテーション」を簡単に説明します。
ヘリコプターは迎え角(「ピッチ」といいます)のついたメインローターをエンジンで回すことによって揚力を得、浮上します。メインローターを竹トンボのようなイメージのイラストで表し、構造と仕組みを説明しましょう。
図1で示すようにエンジンの力でシャフトを回し、シャフトにつながったローターが回転します。矢印の方向(時計と反対回り)にローターが回転すると下向きの風が発生することは扇風機を思い出すと理解できるでしょう。このローターのピッチが大きいほど風は強くなります。また回転速度が速いほど風は強くなります。この風が揚力を生むのです。下向きの風が、ある強さを超えるとシャフト自体が空中に浮きあがるのです。これがヘリコプターが浮くカラクリなのです。
ヘリコプターのエンジンが故障しても、急降下せずに安全に着陸できる仕組みがあります。それがオートローテーションと呼ばれるものです。
図1のままのピッチ(傾き)の状態でエンジンが止まったらどうなるでしょう。ローターは回る力を失うため揚力が小さくなり機体は降下を始めます。降下が進むにつれてローターは下からの風をまともに受け、逆回転方向の力により回転数が下がります(図2)。
そのような事態を避けるため、パイロットはエンジンとシャフトの連動を切り離します。実際には自動的に連動は切れる仕組みになっています。
自動車に例えるとギアをニュートラルに入れるのです。それと同時にローターのピッチをフラット(マイナスピッチ)にします。重力で降下するヘリコプターは常に下からの風を受ける状態にあるのですが、マイナスピッチになっているローターはこの下からの風により正回転の速度を維持することができるのです(図3)
この正回転するローターは重力には負けるものの落下に対する抵抗力が働き、パラシュートの役目を果たすのです。このため飛行中に空中でエンジンが停止してもヘリコプターは天地が逆になって墜落することはありません。
高速の正回転を維持したヘリコプターが接地する直前に、操縦士はピッチを元に戻します。すると大きな揚力が生じ、ヘリコプターは軽く浮上します(図4)。ハードランディングを避けることができるのです。これがオートローテーションの原理です。
オートローテーションの原理について、図を交えて解説しましたが、ご理解いただけましたでしょうか。さらに、この原理をヘリコプターの機体の動きに当てはめたのが図5です。
安全に関わる重要なことなので繰り返し強調します。ヘリコプターには機体を安全に着陸させるためのオートローテーションという緊急操作がありますが、「空飛ぶクルマ」やドローンにはないのです。
(「Vポート」Vertiport の略称、その他の呼称はバーティポート、バーチポート、ヴァーティポート、ヴァーチポートなど)